カーブスに入会して2年目の秋。姪っ子の結婚式での出来事。
 久しぶりの晴れがましい式への出席に、浮き浮きしていた私は、披露宴前の集合写真の撮影に臨んだ。カメラマンが脚立にまたがり「全体にもう一歩ずつ広がって下さい。」その指示に私も右足を一歩、後ろに下がった。悪夢だ!その一歩は池の中に。そうだ、私は最後尾の池の手前に立っていたのだ。その事をすっかり忘れていた。バァシャー、水深2、30センチ位の池の中に...。
今までの自分だったら、バランスを崩し、尻もちをついて、上半身も含め、ビショビショになっていただろう...。が、「スクワット」や「レッグ・プレス」で鍛えた下半身と、12のマシーンにより、いつのまにか備わったバランス感覚の御蔭で、落ちた右足を軸に、上半身を右に90度捻り、両手で着水した。バァシャ~ン。
 皆のどよめきの中、「大丈夫ですから」と、気配りの出来る優しい私。係のお姉ちゃんに連れられ、流し台やモップの置いてある小さな部屋に案内された。マットの上に両足を置くと、お姉ちゃんがドライヤーを持って来て、パンプスにあてた。ドライヤー位で短時間に靴が乾くはずもない。私は「靴はいいからスカートを乾かして!」「良かったよ。パンツが濡れなくて」と、引きつった顔のお姉ちゃんに冗談めいて言うと、お姉ちゃんは真顔のまま、「良かったですよね。寒くない時で。」お姉ちゃんの緊張は解けない。披露宴の時間も気になり、生乾きのまま、「もういいですよ。」と言って、ドップリ水に漬かったパンプスに足を入れ、ハンドバッグを見ると、バケツのように、なみなみと水が溢れていた。中の物を手で押さえながら、水を流し台に流すと、昆布が水に漬かってふやけたように、席次表がベロ~ンと流れ落ちた。御祝儀、渡した後で良かった。「席次表は後で、お席にお持ち致します。」お姉ちゃんは終始、顔が引きつったままだった。お姉ちゃんも私と違う意味で、災難だったのかも知れない。
 披露宴会場は私の身に起こった事が全く無かった事のように、幸せ感に溢れていた。美味しい食事と、空になる事のないビールのグラス。いつしかアドレナリンでいっぱいだった脳内は、セレトニンに満たされ、ひんやりしている足元の事も忘れていた。
 帰宅し、2日後に参列する予定の葬儀の為、使いまわしの黒のバッグを乾かそうと、新聞紙の上にバッグの中身を取り出していると、2コの石が出てきた。池の石だ。立ち上がる時に入ったのだろう。忌々しく思い捨てようとすると、主人が一言。「記念に取っておけば」
 数日後、姪っ子が写真を届けてくれた。その数枚の写真の中に、本来なら私が映っているはずの集合写真の中で、私がいたであろうその場所に、両手を広げピースサインで満面の笑みの主人の姿が......これって、どうなのよ!怒怒怒
 筋力は身を助ける。
 私は今も、徒歩40分ほどかけて、カーブスに通っている。