雨上がりの早朝ウォーキングに出かけた。澄みきった空気を胸いっぱいに吸い込んで。つい先日まで土筆が春を満喫していたのに今はタンポポが土手一面の緑に映え、八分咲きの桜が華やかさを添える。
 
 昨年の9月から近くの遊歩道を歩き始めて半年になる。季節の移り変わりを愛でながらすれ違う人たちとの挨拶もすがすがしい。若いカップルのはじけるような笑顔がまぶしい。つられてこちらも笑い返す。

 大型犬のジェイはとても人懐こく会うのが楽しみ。ジェイに会えた日は何か今日もいいことがありそうな気分に。散歩の途中で出会った人から「散歩アプリ」のやり方を教えてもらう。日々記録されていくと明日も頑張ろうという気分になる。数字は不思議。

 古いたたずまいの家からは朝食の準備か昔の食卓を思い出させるおいしそうな匂いが。遊歩道沿いの用水路には鴨の親子やサギの仲間たち。耕された田畑の黒々とした土。本格的な春を迎える準備が進められている。

 早朝の散歩は20分~30分。歩数にして4千歩から5千歩。背筋を伸ばし、早足で。体が喜んでいるような気分。時折り姿勢がいいですねと声をかけられることも。カーブスに誘われたきっかけの言葉は「猫背になってるよ...」。だったっけ。4年の努力の成果かなと得意になる。
 
 20代から30代の頃は朝の目覚めが悪く、午前中はなんとなくダラダラ過す日が多かったような思い出が。運動嫌いで何かをするにも三日坊主で終わることが殆んどだった。

 40代の後半に運転免許を取得。運転することで行動範囲が広がり、サークル活動や仕事、スキルアップのために専門学校に通ったり、親の看護に役立ったりと毎日がフル回転の日々。50代はさまざまな経験、人との出会いが財産となって輝いていた。
 
 そして定年。60代のはじまりはシルバーカレッジの入学。職種も人生経験も全く異なる50人のメンバーとの出会い。パートの仕事も。サークル活動の合い間に子供の頃からの夢だったピアノが弾けたら...の夢に挑戦したのは60代半ば。

 一番充実していた頃に突発性難聴に見舞われ、一時は聴力が全く戻らず...今は補聴器の助けで暮らしている。70代になりサークル仲間であり、シルバーカレッジのメンバーだったMさんからカーブスに誘われたのは70代半ば。

 運動が苦手であきっぽい私が続けられるかなと思いつつ入会。カーブスのゆるやかさ、コーチやメンバーさんたちとの出会い、自由さが合っていたのかいつの間にか4年の歳月がたった。日常の何気ないエッセイを投稿したり、人との出会いが思わぬ方向に発展したりこれらの事がカーブスに出かける原動力になっている。
 
 年の初めに80代に。80代になりたてと70代半ばの2人で六本木の俳優座へ出かけた。コロナ禍で思うように動けなかった日常から解放され久し振りの新幹線に乗る。

 品川駅から大江戸線に乗り換えるのは初めてなので案内に沿って迷いながら人込みの中をひたすら歩く。山登りが趣味で毎週山で鍛えている健脚の相棒に遅れず歩けたのも日頃のカーブスと散歩の成果。
 
 去年の3月に長年通ったピアノ教室を辞めた。マンネリ化となんとなくこれ以上無理かなとあきらめる気持ちが原因だったかも知れない。わが家から徒歩で7~8分の場所に音楽サロンがあり、月に一度歌う会に参加している。声楽家の人なのでピアノレッスンを...とお願いするのは無理かなと迷っていたが心良く引き受けてくださった。

 一ヶ月程たった頃夢にさえ描いたこともなかった事を先生から提案された。「発表会でピアノをソロで弾きませんかー」。発表会は一年後。

 音楽サロン主催の発表会は音楽専用ホールの「サラマンカホール」。参加者はファミリーあり、独唱、本格的なコーラス。私が参加している気楽な楽しく歌えばいいという仲間たち。ピアノは幼稚園児からコンクールで賞をもらう小学生兄弟、その子たちのお父さんなどさまざまでアットホームな発表会スタイル。観客席をみれば参加者の孫達が走り回っているような雰囲気でも誰も気にしないで自分達の音に酔い知れている。
 
 このホールで私はいつもオーケストラの演奏を楽しみ、ショパンコンクール第2位の反田恭平さん、辻井伸行さん、仲道郁代さん等のピアノ演奏に胸を躍せて聴いた。その同じ舞台でしかもソロでー。長年の親友の言葉に背中を押された。「80才の記念に挑戦する価値あり」といとも簡単に言われた。
 
 基礎の基礎から鍛え直しの一年。「ようやくあのホールにふさわしい音になって来た。間に会わないかと思っていた」と先生の言葉にホッとしている現在。80年生きていると思いもしなかった幸運に出会えることもあり。去年の9月から始めた早朝の散歩が今日まで続いた事も三日坊主には考えられなかった事。

「基礎」が大切なことを身に沁みて感じた昨今。カーブスでの30分の積み重ね、毎朝の散歩で体力がつき身体全体で喜びが感じられるウオーキング。日射しを浴びる朝は心もふるえる。一日の始まり。80代の入り口。
 
 30代、40代、50代、60代、70代、そして80代。どの年代も前の年代より今が楽しいと思え80代を迎えた。
 
 五月。あの憧れのホールで、どんな音を響かせ私自身が楽しめるかドキドキしながら待っている。