右腕を上に伸ばしたり背中側に回したりすると、肩や上腕部がズキンと痛い。
生活が成り立たないほどのレベルではないが、困ることはある。洗濯物を干すにも、髪の毛を梳かすにも、服に袖を通すにも不自由だ。背中にファスナーのある服を着るときは、良いほうの左手をフル活用してスライダー(開閉するときに持つツマミ)を下から押し上げ、腕を前に回して上から引き上げるのに四苦八苦する。車の運転席でシートベルトを装着するときも、体を右後ろにひねって左手を伸ばしてベルト金具を引っぱり出さなければならない。就寝中に寝返りを打って、痛みで目を覚ましたこともある。かれこれ二年は続いている。
整形外科での診断名は「右肩関節周囲炎」という。平たく言えば「五十肩」だ。この年齢で五十はおこがましいが、痛みに免じて許してもらおう。
 理学療法士によるリハビリをすすめられ週一回通院する。治療直後は腕の稼働域が少し広がったような気はするが、三日ともたない。原因が加齢だから、しかたないか。はかばかしい成果を得られないまま半年が過ぎた。
テレビの健康番組を見ては体操し、本に載っている役立ちそうな運動もトライする。公民館の講習「姿勢矯正エクササイズ」には一年以上通った。さらに知人の紹介で整体師の診療所にも行く。器械に頼らない手指による施術を週一回と、たまに鍼治療を受ける。ここには半年間通った。それなりに努力してきたつもりだが、何をやっても治らない。
家から徒歩五分のところにあったスーパーが閉店する。しばらく空き店舗だったが、一階にドラッグストアができ、ほどなく二階に「カーブス」が入った。カーブスは女性専用の健康フィットネスクラブだ。プールやジムのような立派な設備はないが、手軽に短時間で無理なく運動できるのが売りだ。近所でも行きはじめた人の話がちらほら入ってくる。
開設して半年が過ぎたころ、折り込みチラシを見て無料体験を申し込む。きっかけは同世代の友人の一言だ。「最近、足腰がしっかりしてきた気がするわ。カーブス効果ね」
足腰は大事だ。肩関節より大事かもしれない。腕を伸ばせないのは辛いけど、歩けないのはもっと深刻だ。もう肩はやりつくしたし、足腰に方向転換するか。
 広々としたフロアに12種類のマシン(運動器具)がサーキットと呼ばれる輪状に並べられている。上半身を鍛えるもの、下半身を鍛えるもの、体幹を鍛えるものだという。各マシンの間には一辺70㎝くらいの正方形のボードが置かれている。一つのマシンを終えるとボード上で足踏みをしたり、体を揺らしたりして呼吸と心拍数を整える。「チェンジ(移動)」の合図で次のマシンに進む。マシンで30秒、ボードで30秒の1分が一セットだ。12機種を2回りするので24分間運動する。そのあとストレッチエリアに移って12種類の簡単な体操をして筋肉や関節を伸ばす。これが6分間で、計30分で終了となる。
最初の5回はコーチがついて各マシンの使い方を実演説明してくれる。最後のストレッチ体操はビデオの画面を見ながら各自で行なう。
体験してみて、この仕組みは実に上手くできていると思った。30秒という長さ、いや短さがポイントだ。油圧式のマシンは持ち上げるのに重く、引き寄せるのに固いのだが、30秒ならギリギリ頑張れる。キツイ、ツライと思う絶妙なタイミングで「チェンジ」の声が入ってくる。カーブス事業が広く展開されてきたのには、この30秒戦略によるところが大きいのではないかと勝手に考えている。
週二、三回のペースでひと月通い、驚いた。右腕が少し遠くまで伸ばせるようになっている。痛みも軽減した。
 またしばらくすると、物干し竿に無理なく手が届き、踏み台なしで棚の上のものを下ろせるようになった。シートベルトもちょっと頑張れば右手でなんとか引き出せる。
足腰強化が目的だったカーブスで、諦めていた肩の痛みが改善した。買い物ついでに貰った抽選券が「大当り」した気分である。