「退職後の運動不足に注意して下さい」と、退職説明会の話の中でも言われました。
 何しろそれまで小学校教員として、一日中動き喋る生活を、ずっと続けてきたのです。それが、それから一日在宅の生活。
 
 初めの頃は、やっとできた在宅時間、やっと家が片付けられる、庭の手入れができると勇んで過ごしていました。
 しかし狭い家、雨の降る日などは一日百歩も動かない状態。これはいけない!
 
 そこで、まず部屋トレとして、ラジオ体操や、踏み台を置いて上り下り、その場でランニング等々試みました。
 でも、ケージの中のハムスターのようで、すぐ飽き虚しささえ感じてきました。
 
 それでは「家に閉じこもらずに散歩しよう」と出かけました。平日の日中、コロナ前は歩く人は殆ど無く、無人の田んぼは寂しく、住宅街を歩くと、見知らぬ私は不審者と思われているのではと気になり、楽しめません。
 
 ちょうどその頃、公民館のヨガ教室で募集があり、行ってみました。長く続いている講座のようで、常連のメンバーが固定され、新参者の私は、その輪の中に入り込めない感じでした。
 
 次に家の近くに公立のトレーニングルームがあるので、マシンの使い方の講習を受け、通い始めました。
 そこはベンチブレスなど本格的なものもあり、ランニングマシンでとろとろ歩いている私の隣で、すごいスピードで走っている人が沢山いました。
 スポーツの好きな青少年がハードに鍛える感じで、運動の嫌いな、そろそろ高齢者の私には、場違いのようでした。一回三百円という値段は魅力的でしたが、続きませんでした。
 
 以前、夫がホットヨガのジムに通っていたことがあります。日時を予約して、家から車で三十分行ってレッスンを受け、シャワーを浴びて帰ってくると、軽く三時間はかかります。
 予約した日が都合悪くなる時もあり、週二回からすぐ月一回になり退会しました。
 
 だから、ジムも難しいかもと思っていた頃、買い物中に、娘の恩師で尊敬できる先輩にばったり出会いました。
 その店の「カーブス」に通っていると言います。そうか、ここのジムに通っているんだ。
 「いいよ。三十分でできるよ」と言われ、ちょっと興味が出て、より家に近い所で体験してみることにしました。
 
 それから三年、続いています。変なところで恥ずかしがりで、根は人見知りで、スポーツが苦手な私がカーブスを続けられるのは、三つ理由があります。
 
 その一つは、予約しなくてよいこと。
 退職して一年も経たないうちに、義父母の介護が必要になり、自分の予定はもちろんすべて後回し。明日の予定もたたない中、今日行けるという時に行ける事、これが一番です。
 そして行った時のメンバーが固定されていないので、仲間内だけで固まることもなく参加できます。
 
 二つ目は、短くやさしいトレーニング。
 お互いの顔が見える距離でのサーキットトレーニング。決してハードではなく、一つが三十秒で終わるから、がんばろうと思えます。
 混んでいる時も、二十分ちょっとで終わるので待ち時間はほとんどありません。一人でトレーニングしていたら、この負荷でよいのだろうかと思うぐらいです。これがちょうどいい。
 自宅から車で十五分位なので、トレーニングして帰ってきて一時間。これもちょうどいい。
 
 三つ目は、居心地の良さ。
 女性だけで、ほぼ年恰好が同じというメンバーはなんと気楽でしょうか。知らない人だけれど、一緒に円になってトレーニングをしていると、一体感のようなものも醸し出されてきます。
 掲示されているカードを見ると、七十代、八十代だけでなく、九十代と書かれているものもあります。
 しかもそのカーブス歴は十年!私の人生まだまだこれからがんばれると、勇気が貰えます。
 
 それに、何といっても「房世さん、今日もよく来れましたね」と名前で呼んで、笑顔で声をかけてくれるコーチの存在のありがたさ。
 先の見えない介護でなかなか外出できず、家族以外の人と話すことのない日々が続くと、気持ちが沈みこむ時があります。
 そんな時、ここに来てコーチと「昨日は風が強かったですね」などと、他愛ない会話をし、体を動かすと、水から出て新鮮な空気をふうっと吸った気がします。この時間が救いになります。
 
 介護の海を乗り切り、自分も要介護までの日々を遠ざけられるよう、続けていきたいと思っています。