赤と緑のレーザー光線が無秩序に放射される。ベースギターの重低音とドラムのビートが空気を震わせ、床を伝って足の裏から脳天へと尽きぬける。
一昨年の初冬、私は五十代半ばにして初めて、ライブハウスに足を踏み入れた。周りを見渡してもそこに集まる二千人程の人々のほとんどは私と私の相方の子世代くらいに違いない。気分が悪くなったらすぐに外に出られるように、私たちは後方の出入り口近くに陣取った。
 それでも演奏が始まれば、皆と同じように腕を振り上げ、叫び、飛び跳ねる。私たちの発ライブハウス参戦はつつがなく終了し、帰りは出待ちまでするというオマケもついた。
その相方とはカーブスで出会った。当時いたコーチが、たまたま私たちそれぞれに、同じミュージシャンのファンがいると教えてくれたことが出会いのきっかけだった。
 私がカーブスに入会したのは2012年の初冬、ライブハウス初参戦の2年程前になる。その年の春、私は離婚問題を抱えて、子供たちと家を出た。子供といっても彼らもすでに皆成人していたから、私たち家族はそれぞれがバラバラに住むことになった。
30年近い年月を私は家族のために費やしてきた。でも実は、自分は形振りかまわず家族の為に自らを犠牲にしてきた、という言い訳を隠蓑にした、ただの怠惰なおばさんに成り下がっていただけかもしれないと気づいた。まずは仕事を見つけ、働いて得たお金で以前なら決して買わなかった物、CDや高価な化粧品やハードカバーの本を買った。ずっとやめていたコンタクトレンズも新たに再開した。
 それからスポーツジムや習い事にも行きたいと思った。産後、激太りした時にフィットネスクラブに入ったことがある。確かに痩せることはできたが、やめたらリバウンドしてしまった。その苦い経験から、長続きできる自分に合った所を見つけようと思っていた。
そんな時、カーブスの折込広告が入った。『まずは体験を!』いざとなると尻込みしそうになる自分に発破を掛け、私はカーブスの扉の前に立った。
 そこは、私が想像していたのとはずいぶん違っていた。でも、ハードなトレーニングはもう無理だとわかっていたし、これ位ゆったりした所の方が年齢的にも自分に合うのかもしれないと、あまり悩まずに入会を決めた。あの時はゆったりだと思っていたマシントレーニングだが、今はこれがなかなか侮れないことをコーチたちが教えてくれる。彼女たちが、マシンの扱い方を手直ししてくれると、一気に負荷がかかるからだ。これは正しいラジオ体操の動きをすれば痩せられる、というのと同じかもしれない。
それから一年、私は脂肪を減らして、娘たちと楽しくショッピングすることを目標にカーブスに通った。仕事がある為、通える日数は決して多くはなかったけれど、少しずつ効果は出ていた。
 丁度その頃、私は自分が2011年に突然虜になったバンドが国立競技場でライブを開催することを知った。それまではCDを聴いたりDVDを見たり、ネットで誰かが書き込んでいる情報を見たりすることで満足していた。自分がその場に出かけて生のステージを見る、ということが想像できなかった。でも、そのニュースを知った時、どうしても行きたいと思った。良い機会だと思い、思い切ってファンクラブにも入った。そして何とか1日分のチケットを取ることができた。
 それから3カ月は、前にも増してカーブスに可能な限り通った。目標はライブまでにもっと軽くなりたい、ということに変わった。コーチを通じて、今の相方に出会ったのは、その頃だった。彼女とはすぐに意気投合した。同世代で同じミュージシャンのファン、と言うこと以外、私と彼女にはほとんど共通点がないにも拘らず、私たちはプライベートでも会うようになった。
彼女と出会った2014年は、不思議とそのミュージシャンがらみのイベントがいろいろあった。ラジオ局主催のトークイベントのペア観覧券が当たったり、某デパートで写真店が開かれたり、そして初めてのライブハウス体験の後、年末にはドキュメンタリー映画も上映された。そのすべてに私たちは出かけた。又、年明けの3大都市アリーナツアーも発表されていて、その頃になると私のカーブスの目標も変化してきた。
 「若い人たちに混ざってライブを楽しむ」この目標が、今私がカーブスに通う根底となっている。若い人達が集まるライブというのは、オールスタンディングが基本である為、3時間位は立ちっぱなしを覚悟しなければならない。何より体力勝負となるのだ。
もちろん、私がカーブスを続けている理由は、すべてがライブの為だけではない。時には行くつもりだった日に、行くのを止めてしまったりすることもある。でもいけない日が続くと妙にイライラしてしまう。月に2~3度しか行けていないことが続いた時があった。もう辞めてしまおうかと、と思いコーチに言ってみた。その時、コーチ言われた。「2回は来れたじゃないですか!」1週間、行けない時があった。先週来れなかったの、と受付に言ったら、「今日、来ていただけてよかったです」とにっこりされた。そうか、これがポジティブシンキングなのか、と気づかされた。疲れていたり、落ち込んだ気分で出かけて行くと、コーチは必ず声をかけてくれる。「ストレス発散して行って下さい」そんな声掛けがあるだけでも、不思議と終わる頃には気分が明るくなれていたりする。
 現在、私は当初期待していたほどには体型は変わっていない。娘たちにはずいぶん細くなったと言われたけれど、途中又太ったりを繰り返している。筋肉量や骨密度などへの意識もずいぶん変わって来た。ただ単に食事量を減らせば、体重は減るだろうけど、そんなことは無意味だと今は思っている。
 毎回の計測で、体力年齢を測る時、腹筋の回数が上がっていくことが、とてもうれしい。マシンの使い方も、コーチがどんどんきつくしてくれる。とても疲れるけれど、帰る時にはすっきりしている。ある意味、生活の一部になって来ていると感じている。
去年の9月、私は一人で大阪までライブに出かけた。その行動力をみんながほめてくれる・・・いや、もしかしたら呆れているのかもしれないけれど。そして今年の1月、私と相方は再びライブハウスの中にいた。そして私たちは声を限りに叫ぶ。
「Hyde~~~~~~~!!」
 ずっと追い続けていけるように、今日も私はカーブスへ行く。