一年前は、はるか前方を夫が歩いて行く。さっそうと地を蹴って早足で。「何てカッコ良くてステキなんだろう」と思いつつ、一方では「並んで歩いてくれたって良いのに。手をつないでなんて言わないから、せめて肩を並べて歩くくらいは」との不平の念も湧いてきて、恨めしい思いで夫の背中を見つめていると、その思いが通じたのか、夫が立ち止まり、少々苛立ったようすで、私を振り返りながら待っている。やっと追いつき、「あなた、早いんだもの。かすんで見えるくらい先に行ってしまうんだもの」と言うと、「だって」と夫も当惑顔をしている。
最近は夫に誘われ、ちょっとした山歩きなどする機会がふえたけれど、いつもこんな展開になり、残念な思いを持ち帰ることが多い。「仕方ないかも。夫はひと回りも若いし、スポーツ万能(ウィークデーは仕事の後、テニス、バトミントン、インディアカ。土、日曜日は野球にソフトボール。メンバーが足りないからと請われればフットサルでもグランドゴルフでも何でも。終れば必ずジムに寄ってから帰るという生活をしている)だし、一方の私は年上、スポーツは学校の授業でしか経験してないし」とあきらめてはいるものの、やはり、並んで山歩きをしているご夫婦に出会ったり、手をつないで散歩しているご夫婦を見かけたりすると、心穏やかでなくなる。なぜ私達夫婦にはそれが無いのだろうか、と。せめて夫が歩くその後を、おしゃべりできる位の距離で歩きたい、というのが私の秘かな願いになっていた。そのためにはもっと体力をつける必要があることにも気付き始めていた。
そんな矢先、同居している息子から私に対してしばしばクレームが付くようになっていた。「お母さん、姿勢が悪い!」「お母さんの姿勢、猫みたい」「ちょっとそのままの姿勢でいてごらん。スマホで撮って見せてやるから」などと、言葉を変えて毎日注意される。それが一日に何回もとなるとすっかりしょげてしまい、何とかしなければと切羽詰った思いにもなり始めていた。
姿勢の良い人と話をしてみると、男女ともスポーツジムに通っていることが明らかになった。そうなると、今まで気にもとめていなかったカーブスの新聞折込チラシが気になって仕方がない。カーブスに行けば姿勢も良くなり、体力もついて、もっとステキな人生が展開するのではないか。夫との山歩きももっと楽しくなるのではないかと、渇望にも似た思いを抱くようになっていた。ところが、一人でカーブスの門を叩く勇気は無い。悶々とした日々の中で何気なく「私、カーブスに行ってみたいんだけど、一人じゃ抵抗あるのよね」と呟やくと、何のことはない、時々会っている友人が「あら、私、行ってるわよ」と言う。「キャア、ラッキー!」ということになり、その友人の紹介で、私のカーブス人生が始まったのである。

現在。ある時私は、「気分はいつでも十八歳」これを口癖にしようと心に決めて、折ある毎に口にするように努めて来た。いつでもどこでも言いつづけてきた。ずい分ひんしゅくも買ったようで、「とてもそうは見えないけどね」と何度もからかわれ、そのつど「いいのよ、気分だから」と切り返し、最近は先方も面倒くさくなったのか、あきらめたのか、「気分だからね」と同調してくれるようになった。内心しめしめとほくそ笑みつつ、「気分はいつでも十八歳」を押し通している。
時には鏡を見て愕然としたり、気持が少々落ち込むことがあったりすると、十八歳は返上して十九歳に変えようか、と弱気になる時もあったが、いざその思いを口にすると、当初は眉をひそめていた友人達が「ちょっと待ってよ。あなたが十八歳と言うから、私達は十九歳とか二十歳と言って来たのに。私達まで変更しなくちゃならないのは面倒だからやめてよ」と言う。だから私は相変わらず十八歳のままなのである。そして、主人との山歩きを楽しみたいし、息子にクレームを付けられない姿勢になりたいという思いが極まった折も折、カーブスに入会できたのである。
  さていよいよ通い始めてみると、カーブスの方針全てが私の理想に近いことに驚いている。先ずコーチ全員が明るくて讃嘆上手。ドアを開けた途端に、「むつみさん、こんにちわあ」と元気に迎えてくださる。名前で呼んでくださることもうれしい。聞くところによると、女性は名前で呼ばれると女性ホルモンが活発に働き始めて益々女性らしくなるというから。つづく言葉は「今日も元気にやって来られて素晴しいですね」など。マシンの扱いもはじめにほめてくださり、次により良く扱えるように指導してくださる。帰ろうとすると「お疲れさまあ、次回はいつですか?」と聞いてくださる。これによって、その日は必ず来ようという決意が固まる気がする。
又、メンバーさんはお友達になっていただきたいと思えるステキな雰囲気の方ばかり。
話をしてみると、趣味が同じだったり、意外に近所に住んでいらっしゃったり、ある方などは私の中学時代の親友の妹さんとわかり、大喜びしたこともある。類をもって集まるという言葉があるが、私達女性のために、より健康に、より幸福にと願ってくださっているカーブスには、それと同類の前向きなコーチと明るいメンバーさんが集まるのだろうか。ひとり勝手に憶測しては喜んでいる私である。
  先日、尊敬している男性の先輩から、「さっそうとしてカッコいいね」と言われて舞い上がってしまった。というのも、数年前にはその先輩から「も少し姿勢が良いといいのにね」と言われたことがあるから尚更である。最近は息子のチェックも減った気がするし、夫と出かける時も、夫の後姿がかすんで見えるということはなくなった。夫の歩調に段々と合わせられるようになったのかも知れない。夫の方でも、どんな時にも何をするにも私を誘ってくれるようになった。筋トレとかスポーツに関する話題がふえたことも実に嬉しい。
  そういうわけで、今の私には二つの心地良い時間がある。一つ目は、夫と山歩きしたり、夫の傍らでテレビのスポーツ番組などを見ながらくつろぐ時間。二つ目は、カーブスで筋トレしながら、合間にコーチやメンバーさんとおしゃべりする時間である。これからもこの二つの時間を大切にして、益々明るく、「気分はいつでも十八歳」を貫いてゆきたいと願っている今日この頃である。