カーブスエッセイ大賞2020結果発表

作品詳細

佳作

「事故って実感!カーブスが恋しい」

秋子様(72歳) カーブス西荻窪北(カーブス歴:9年11ヵ月)

チャリンコ愛好家を卒業して以来、お散歩好きに変わった。冬-。凜とした冷気の中を、ちょっと早足で歩を進める。頬にあたる風が気持ち良い。春の陽射しも捨てがたいわ。隠やかな陽光。じんわりと体を包み込む温もり。新緑って自然界のセラピストだ。秋のお楽しみは、隣家の落ち葉。黄色、赤、オレンジ...。つい拾って持ち帰り、テーブルに飾ってみる。うん、いいね。
 毎日およそ8000歩。20年以上続いてきたルーティーンが、ある日、突然ストップしてしまった。歩くどころか、しゃがめない。寝返りするたびに激痛で目が覚める夜。日常生活さえままならず、行きたくても辿りつけないカーブス。日本中を震かんさせた"3・11"の時でさえ出向いた大好きな場所なのに。
 震災があった日、私はヘルメットを被って向かった。
「えへへ。這って来ちゃいました」
冗談ぽく言った私に、オーナーとコーチが目を丸くしていたっけ。その日の夕方、カーブスにオジャマしたのは私一人だったそう。
 地震がこようが、台風に見舞われようが、東京に居る限りは通いたい。カーブス歴10年で、すっかりこのフィットネスクラブにハマってしまったのだろうか。

 まさかのアクシデントに見舞われたのは、2019年11月3日。卓球仲間の一人に勧められるままに乗ったバイクが転倒したのだ。後部座席から体が跳ね上り、腰からアスファルトに叩き付けられた。
 尾てい骨をしたたか打ち、体がそり返った反動で頭部も地面に強打した。フルフェイスのヘルメットの中で「ゴォ~ン」と鳴り響く鈍い音。体のアチコチに今まで経験した事のない痛みが走った。
 72歳にして人生初の交通事故。病院で下された診断は、全治1か月の打撲症だった。あの衝撃。骨折していなかったのが不思議だ。「好奇心旺盛というのは悪くないけど、年齢からいって二人乗りはねえ。いつまでも若い訳じゃないわよ」
 見舞ってくれたミッちゃんの叱責に苦笑いするしかない。済みません。
「ダンディなオッチャンのハーレーに乗っけてもらったっていうんなら分かるけどさ。ライダーは女なの?えっ、75歳!もう秋さんに付き合いきれないよ」
 絶句する飲み友。あのね、去年の貴女の誕生日。お寿司屋さんで「お腹が苦しいよ~」とおっしゃるくらいご馳走してあげたのは誰でしたっけね。「女同士の飲み友達って、めんどくさい男と違っていいわぁ」と、喜んでいたのは、目の前のア・ナ・タ。心の声と一緒に、いただいたお見舞いのチョコをグッと飲み込む。今年の誕生日は立ち飲み酒場ね。

 事故から2週間後、平らな道なら何とか歩けるようになった。ただ、階段がダメ。足を上げ下げするたびに尾てい骨に響く。
 カーブス西荻窪北店は2階にある。階段もちょっと急だ。コーチに電話する。
「アッコさん、秘密のルートがありますよ」
 それはオンボロ(失礼!)のエレベータだった。そのボロボロ(もっと失礼!)に助けられフィットネスを再開する。
 ボードでは軽く足踏みをするだけ。モノ足りないな。ハードルが高かったマシーンは、スクワットとレッグ・プレスだ。
 マシーンに乗り、おっかなビックリ腰を落とす。尾てい骨辺りに、まだ異和感が残る。1か月ぶりの運動だもの、仕方がないか。腰に伝わる圧力が、やけに強い。股(もも)も肩も妙に頼りない。
 1か月休んだだけなのに、これほど筋肉が落ちるなんて。ウォーキングも卓球もカーブスもなし。ただただ安静にしていた日々だった。あせらず、ゆっくり体力を取り戻そう。12月は"慣らし期間"と決めて、マイペースで取り組んだ。
 ようやく以前のペースに戻れたのは、年が変わった令和2年。ボード上でリズムカルにステップを踏む。おっ、良い感じ。オヘソの周りにキョッと力を入れて、腹圧を高める。強敵のレッグ・プレスは、心して掛かる。ファイト!
 全身が温まっていく。胸の谷間(多分あるはず)から流れる汗。サーキットを2周する頃には「今日も元気だぁ」と声を出したくなる。仕上げのストレッチ。バレリーナとまではいかないが、指の先までスッと伸ばす。背中も丸めちゃいけません。
 夕方になるとワクワク気分で向かうカーブス。繰り返されて当たり前だと思っていた日常が、今つくづく「ありがたい」と感じる。カーブスから帰ったらシャワーを浴びて、今宵も飲んじゃおうかな。

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