「手術はあっという間に終わり、凄くよく見えるようになった」と称賛する声ばかりが耳に入っていたので、何の不安も抱かないまま8月に白内障手術を受けた。
右目の術後2週間程経過した頃、体に発疹が出た。「めったにない事です」と医師は目薬を変えてくれた。左目の時は目やにが出て目が開かなくなった。流行り目に罹ったのではないかと検査を受けたり、何日か目薬の使用を停止し様子観察の措置を受けたりした。再度変えた目薬の効果で症状は回復したものの、小さい黒ゴマをぶっ掛けられた様な飛蚊症が残った。医師は「飛蚊症は加齢によるもので慣れるしかない。視力も出ているし、検査結果、網膜剥離等の病気の発症も確認されていないので安心してください。今後定期的に検査を受けてください」と異常なしで3か月検診通過。
まさかの目薬による副作用。これまで病気に縁のない生活を送れていたので、不安と心細さに正気を失い小心者である事を露呈し、塞ぎ込む日が続いていた。10月に入り筋トレの許可が下りたので、気分転換を兼ねてカーブス通いを再開した。2か月のブランクを感じる事もなく、コーチや馴染みのある方々との接触を通し、徐々に心が軽くなっていくのを感じ始めていた。
旅友から救いとも思えるメールが届いた。「私もアイスランドへ行きたい」と「火と氷の国、地球の割れ目のある国、アイスランド」へ是非行ってみたいと、旅先で知り合った旅好きの仲間の輪に「行く時は誘って」とアンテナを張っておいたのだ。この機会を逃してなるものかと意を強くし、思い立ったが吉日とばかりに友達と12月9日出発のアイスランドツアーに申し込んだ。
寒がりで冬は手足の先が氷のように冷える体質。12月のアイスランドの気温は3~4度、風が強く降水量も多い等の情報を基に、防寒対策や安全対策の為の必需品調達に、夫の協力を得ながら奔走した。万全を尽くしたつもりでも、自分の年齢を考えるとちらっと不安が過り、今まで経験したことの無い緊張感を抱いての搭乗となった。ヘルシンキ乗り換え、ケフラヴィークまで計17時間の飛行時間。旅への期待が膨らみ疲れを感じる事なく無事到着。
早々に観光日程がスタート。ゴールデンサークルへ向けてバスは走り出した。ストロックル間欠泉、グトルフォスの滝と続く川の周囲は雪が固まり真っ白、階段状になっている滝は2段目の方が落差あり、氷柱が出来ていて高く舞い上がる飛沫は飛び散る瞬間凍っているように見えた。「黄金の滝」と呼ばれるに相応しい様相だった。
地球の割れ目「ギャウ」に着いた時は日の入りが早いので残念ながら暗かった。北米プレートとユーラシアプレートが地上に出現しているのはここだけ。これらのプレートの沈む最終地点は日本。プレートの境目に出来た遊歩道を懐中電燈の明かりを頼りに歩きながら、高くせり出している岩壁を撫でて「はるばる会いに来たよ」と囁いてみた。
どこまでも広がる草原の中の1本道を、海岸沿いに広がる南アイスランド観光に向けてバスは行く。草原の後方に連なる緑の山は溶岩に苔が張り付いているのだそうだ。たまに放牧されたアイスランドホースが肩を寄せ合うように草を食べている姿があった。
コスガ滝の前でびしょ濡れになったが、滝の横に出来ている階段を上って行く人の列が目に入った。"上ろうよ"と尻込みする友達を励まし、先に上り始めた。着膨れしていて動きが鈍く、息が上り途中で何回か足を止めたが頂上に着けた。雄大な川の清流が向こうから流れて来ていて、目の前の岩壁からゴーという音を響かせ飛沫を上げ滝となって落ちていった。滝の生まれる瞬間に立ち会った。世界三大滝といわれるナイアガラの滝、南米のイグアスの滝、アフリカのヴィクトリアの滝も以前見て大いに感動した記憶がある。滝の規模からしたら比較にならないが、自然が生み出すスペクタクルに立ち会えた喜びは、何度味わっても良いものだ。
ツアー仲間と囲むテーブルには、地熱利用のハウス栽培で出来たトマトやサーモン、アイスランドラム等地場の食材を生かし、食欲をそそられるセンスのよい盛り付けで、絶品のメイン料理、デザートが毎回たっぷり振舞われた。皆幸せ気分になり話が盛り上がり「お元気ですね」と声を掛けられ「有難うございます。カーブスへ通ってます」と返答。「お幾つですか」には、「最年長組です」と笑って逃げた。
黒い玄武岩が波に打ち砕かれて出来た柱状節理をなした大きな溶岩、周囲は黒い砂丘が広がっていた。冷たい雨と強風で息をするのも立っているのも困難で直ぐ退散したブラックビーチ。氷河が海に流されプカプカ浮き、波打際に打ち上げられ氷が太陽に照らされキラキラ輝いていたダイアモンドビーチ。毎夜、深夜に起き出しホテルの屋上で眺めたオーロラ。肉眼では、ビルの向こうに広がっている白い雲のようにしか見えないが、カメラのレンズを通すと緑色に見え、おおーと思わず捻った。
冬の旅のハイライト、自然の氷の洞窟、スーパーブルーへ。スーパージープに乗り換え、道なき道をひた走り洞窟へ。寒さ対策をし、ヘルメット着用、頑丈なアイゼンを靴の底に取り付け、いざ出発。
大小の石、ぬかるみ、氷が頭上近くまで張り出しているところもあり足元の状態は極めて悪い。ヘッドランプの明かりを頼りに滑らないよう、転ばないよう慎重に歩を進める。透明な氷、泥を含んだ黒やグレーの氷、鮮やかなブルーに輝いている氷達が壁になっている。要所で写真タイムもあり、危険な場所なのでガイドの指示に従い奥へと進んで行った。天井が高く広い空間の出来ている場所が到達地だった。皆の歓声が上がった。雄大な自然に感動し、自然が作り出した絶景に言葉を失い、自然の脅威に圧倒され、そして火山国ならではの温泉へ。火山噴火の影響でブルーラグーンは残念ながら休業中、近代的設備を備えた地熱スパで温泉気分を満喫。
バスは最終目的地、首都レイキャビックへ。車の往来も激しく、近代的な建物が軒を連ねた都会。柱状節理をモチーフにして建てられた立派なハトルグリム教会。パイプオルガン演奏中で厳粛な雰囲気が漂っていた。クリスマス前で、派手過ぎない電飾が彩りを添えている展望台から眺めた街並みは素敵だった。
冷戦終結の会議をし、アメリカのレーガン大統領とソビエトのゴルバチョフ書記長が握手を交わしたホフジハウス。
圧政から逃れアイスランドに辿り着いた人全てが平等に生きる為に、世界最古の民主議会であるアイシング創設以来千年。男女平等の国、安全の国、そしてIT大国でもあり、屋台のホットドッグ屋さんの支払いもカード。今後この国は急ピッチで発展して行くだろうと感じた。
「継続は力なり」カーブスとの繋がりを考えた時に、この言葉が浮かぶ。
神戸の義母の横浜―神戸間の長距離介護が始まった時、体力勝負になるなと覚悟し、カーブスの扉を叩いたのが2011年10月。気付けば13年半の歳月が流れた。コロナ騒動もあり、昨年目薬の副作用を経験し精神的に落ち込み、すっかりやる気を無くし地団駄を踏んでいた最悪の状態からの脱出に力を貸してくれたのもカーブスだった。30分のプログラムは継続出来た大きな要因の1つであった。通い続けた事で体力が維持出来、アイスランド旅行も敢行出来た。好奇心は止まる事を知らないでいる。