私はかなり疑い深い性格である。知らない番号からの電話には出ないし、家電を買う前は口コミサイトだけでなく取説をダウンロードして機能を調べる。カーブスのことも正直言うと最初はあまり信用していなかった。職場から車で5分の距離にカーブスがオープンしたのは10年以上も前で、無料体験の案内チラシを目にしたりはしていたが「30分程度の運動で簡単にやせるわけがない」「他のジムに比べて費用が安いから、ほかに何か買わされたりするのかも」と疑ってかかっていた。
 
 風向きが変わったのは数年前のこと。コロナで仕事が減ってゆとりが生まれ、空いた時間を利用して私は宅建を受験し合格した。さあ次は何をしようか。私より何年も前に宅建を取得しているTさんが「カーブスの体験してみない?」と声をかけてくれた。「Mさんも私の紹介でカーブスに行ってるんだよ」
どちらかといえばシニア層向けのイメージがあったカーブスに、年下の友人が2人も通っているのはちょっと意外だった。自分でも体力がなくなってきて、職場の入り口の階段を上るのもなんだかつらい、と思っていた。病院に行くほどではないけれど、どことなく調子が悪い。私はカーブスに対する疑問をぶつけてみた。
「服装はやっぱりスポーツウェアとか?」
「動きやすければ普段着でOK。試着室みたいな所があるから私はそこで制服を着替えてる」
「シャワーもないって聞くけど...?」
「運動するのは短い時間だから、体がポカポカする程度で大汗かくことはないかな」
フットワークが軽いTさんも、体のことを考えてカーブスに通っている。彼女なら騙されて高価なサブスクに手を出すことはなさそうだ。よかったら一緒に行こう、ということになり予定を決めた。

 カーブス体験の場で、体力年齢は70代と診断されショックだったが、大好きな洋楽や英語のアナウンスが流れる雰囲気は楽しくて、続けられそうな気がした。買わされる危惧とは逆に、Tシャツと靴下を入会記念にもらい、来店スタンプを貯めるとさらにウェアなどがプレゼントされるということだった。目標は体力をつけて老化を遅らせること。ワークアウト中の会員さんがみんな生き生きしてるのが印象的だった。あとで、掲示物などで自分より年上のメンバーもいるのが判明したが、当初は私が1番年寄りのように感じていた。体は固く、マシンは重い。でも運動のあとはTさんの言っていた通り体が温まり、気分も明るくなっていくのがわかった。
 
 カーブスに来るとコーチが「まちこさん、こんにちは」と声をかけてくれる。下の名前で呼ばれるなんてあまりないから、くすぐったいけどなんだかうれしい。「髪、切った?」「そのTシャツかわいい」とさりげない変化に目をとめて会話のきっかけを作ってくれたりもする。カーブスアプリによると1日100人以上のメンバーが訪れるはずなのに、コーチたちの記憶力と観察眼の鋭さにびっくりする。
カーブスという職場以外の居場所ができ、運動してコーチと話すたびに気持ちが充実するのがわかり、どんどん来るのが楽しみになってきた。まるでカーブスマジック。魔法にかかったみたい。運動するとわくわくする。60年以上生きてきて、初めてわかった。小さい時から体を動かすのが苦手で、仮病でさぼるくらい体育が嫌いだったのに。子供時代の自分に「今はまだわからないかもしれないけど、体を動かすって楽しいんだよ」と教えてあげたいと思った。

 2か月くらい経ったころ、プロテインの説明会があった。タンパク質の重要性は理解できたし、自分の食生活ではカーブスで1日に摂取する目標12点に全く届かないこともわかった。朝ゆで卵、昼ラーメンのチャーシュー、夜冷や奴では目標の3分の1にもならない。でもプロテインの定期購入には疑い深い性格が頭をもたげてちょっと抵抗感を覚えた。運動のあと、ほかのメンバーが何かを飲んでいるのは知っていた。筋トレのすぐあとにプロテインを飲むと、筋肉を増やすのに効果的、という説明だった。
「毎日飲まなくても、カーブスに来た時だけ飲む人もいるんですよ。飲みきれなかったら次の購入日をずらすこともできるから、遠慮なく声をかけてくださいね」
必要なくても買わされるのとは違い、自分の飲むペースに応じて注文できるという点はいい。とりあえず飲んでみようかな、と契約することにした。
1日おきくらいに飲んでいたら、高タンパク質に体がびっくりしたのか胃腸の調子が悪くなった。コーチに相談したところ「分量を減らして少しづつ慣れていくように」とのアドバイス。そこで自分の体と相談しながら、スプーン半分くらいから徐々に増やすようにした。2袋目のプロテインが少なくなるころ、そういえば最近、爪が割れないな、と気が付いた。私の爪は少し伸びると割れたり欠けたりすることが多く、年齢的に仕方がないとあきらめていたのだが、どうやらタンパク質が足りていなかったというのが正解らしい。そのうちプロテインの分量を増やしても平気になり、タンパク質を消化するのが上手になったのか、胃もたれしにくくなってきた。それまでは焼肉などボリュームのある料理の後は胃薬が欠かせなかったのに。外食で「私ステーキ」と注文して家族に驚かれたりした。
プロテイン、本当は錠剤かなにかでもっと手軽にとれたらいいのに。きっとそのうちカーブスで開発してくれると信じている。

 昨年春には奈良に出かけ、一緒に行った妹に「こんなにお姉さんが歩けるとは考えてもみなかった」とびっくりされた。秋にはタイ旅行に行った。ツアー仲間が疲れたから部屋で休むわ、と言う一方、私はひとりでホテルの近所を歩き回って異国の雰囲気を味わった。筋トレでこんなに元気になれるなんて。健康と幸せは密接に結びついているんだな、と実感した。旅先で、カーブスに着ていくTシャツを選ぶ新しい楽しみもできた。

 年末にWプランの案内があった。店舗と自宅での運動をセットにし、家ではスマホの画面を見ながら、カラフルなボールとゴムを使い筋トレをする。この説明を受けたときは以前のような疑いの気持ちはほとんど残っていなかった。カーブスに通って2年半、体力がアップし前より元気になった自分には、もっと運動したいという気持ちしかなかったのだ。おうちでカーブスはスキマ時間に取り組めるし内容も変化に富んでいて飽きない。カーブスになかなか行けないお正月休みにもぴったりだ。夜のストレッチのあとはいつもより熟睡でき、疲れが取れた。

「まちこさん、お手本になってもらえます?」とコーチ。
「え、私でいいの?」
新しく入ったメンバーさんが私の動きを見て参考にするらしい。カーブスに通うようになって3年、最初はおっかなびっくり動いていた私が、マシンの使い方のお手本?驚きとうれしさでニコニコしてしまう。
そういえば運動を終え「ありがとうございました」と外に出るときも、夜空を見上げひとりでほほえんでいる自分に気がつく。運動、健康、幸福感、すべてつながっている。カーブスマジックのおかげで私の体も心も成長しているように思う。もっと続けていきたい。