34年連れ添った優しい夫がガンで亡くなった。寒い冬が終わり、少しずつ心が落ち着き春めいてきた頃、趣味で社交ダンスを楽しんでいる同じ歳の友人が、「私は寝る前に1分間プランクをやっているの」と言った。それを聞いて、とりあえずそのプランクとやらを試してみた。30秒と続かない。しょうがないので、ユーチューブ動画で体幹運動を検索した。動画を見ながら挑戦。できない。これまで運動経験のない私にはハードルが高い。そこで「体幹運動の基礎の基礎」という動画を発見。ところが、この超基本編ですら、ちゃんとできているのかどうかは怪しい...。
 そんなある日、以前一緒に働いていた友人が我が家を訪れた。私の大好きなイチゴを持って。彼女のお母さんが体調を崩し入院させてきた帰りとのこと。いろいろ話をしているうちに彼女は少しずつ元気になり、話は「カーブス」に。数日後、郵便受けに彼女からの「カーブスへの招待チケット」が入っていた。そういえば、小学校の同級生もカーブスに入っている話をしていた。カーブスのおかげでビールがうまいが口癖だったなあ。
 運動が苦手な私への友人たちからのカーブスへのお誘い。正直、気乗りはあまりしなかった。ただ、実際に見ないで、体験しないで、断るのはいかがかと思い、とりあえず体験を申し込んだ。

 体験当日、カーブスのドアを開けた。「こんにちは」とコーチたちからの明るい声。そして、そこにはズラリと12種類のマシーンが並んでいた。説明を聞き、コーチの指導の下、実際にやってみる。10日ほど前に、半月板損傷をしてしまい、右足を引きずっている私には難しいマシーンもある。しかし、一巡すると上半身も下半身ももれなく筋トレができるシステムはすばらしい。これらのマシーンを買えるはずもないし、そもそも自宅に置けるわけもない。ここに来るのが今の自分のベストだと一瞬にして理解した。すぐ、入会の手続きをした。
 体験を終え帰ろうとしたら、1人のコーチが駆け寄ってきた。なんと私の40代の頃勤めてた学校の教え子だった。ここで会えるとは。再会を喜び、「またね!」と言って別れた。翌日から、通い始めた。最初はコーチたちの模範演技をよく見ながら真似らしいことをしていた。次第に、メンバーさんの中でかっこよく筋トレをしている人を見つけ、真似し始めた。私は彼女のことを勝手に「師匠」と呼んでいる。マシーンを大きく速く動かす姿は憧れだ。何事も先輩に学べの精神が大事。少しずつ、少しずつ、筋トレらしくなってきた。教え子コーチも、マシーンの使い方を丁寧に教えてくれた。そして「この調子で後半もがんばりましょう!」と応援してくれた。
 半年ほど経ったある日、メンバーさんから声をかけられた。「足の調子よくなったね!ここに来た頃は足を引きずっていたよね。」なんて嬉しい一言。以前、左足の半月板損傷をした時は治癒に1年以上かかった。その時より今回は年齢は高くなっているけど、圧倒的に早くここまで治ってきている。私は確かに進歩している。よくなってきている。「続けていこう」と心から思った。
 カーブスは、月に何回行っても定額料金。コスパ重視の私は月14回、1回ワンコインを目指す。用事などがある日は諦めるとして可能な日はとにかく行く。行くとコーチが「今日も来てくれましたね」と笑顔で迎えてくれる。頑張っている自分をほめたくなる。
 そんな私の月に1回のご褒美は、アロマセラピー。施術してくれる彼女とは10年以上のお付き合い。施術しながら、「体が変わりましたね。背中も足もすっきりしてきました!」と一言。他のメンバーさんのように体重が落ちたりはしていないが、見た目が変わってきていることは体重以上に嬉しい。
 今年の2月、コロナで封印していた海外旅行を再開。秋田からも直行で行ける台湾へ。「千と千尋の神隠し」の舞台になったと言われている九份はぜひとも訪れたい場所。しかしそこには300段の階段。登りはどうにかなると思っていたが不安なのは下り。でも往復600段、我ながらがんばった。茶房で飲んだタピオカミルクティーは忘れられない。

 私には観たい景色がある。若い頃、映画「南極物語」で観た天井に踊るオーロラの光。自分の足で行き、自分の眼で観るのが夢だ。
 「カーブスに行く」という小さな行動の積み重ねがその夢につながっていると思う。さあ、カーブスに行こう。