ずっと文通だけで互いを支え合ってきた学生時代の親友と、昨年、25年ぶりに再会を果たすことができた。早めに到着した待ち合わせ場所の駐車場、入ってくる1台1台の運転手の顔を確認する。念のため互いの車種、色、車番を伝えていたが、その必要はなかった。互いの姿がフロントガラス越しに目に入った瞬間、涙が止まらなかった。1時間半ほどしか離れていない場所で暮らしているのにどうしてもっと早く会う機会を作らなかったのだろう。
「やっと会えたね、今まで会いに来られなくてごめんね。ずっとお手紙くれて支えてくれてありがとね。」
私より少し年上で面倒見がよくて小説のようにきれいな文章を書く彼女とは、毎年バースデーカードとクリスマスカードと年賀状を通して近況を報告し合い、元気のもとになる「パワー」を送り合っていた。仕事で悩んでいたとき、彼女は私の1番の理解者になってくれた。先輩目線で適格なアドバイスをし、エールを送り続けてくれた。出産の知らせには、マザーズバッグと読み聞かせ絵本を選び、祝福してくれた。子育てに疲れたときは、子どもの成長を一緒に応援し、たっぷりの栄養を心に注ぎ続けてくれた。旬のおいしいものや、ご主人の好物、最近読んだお薦めの本、家族旅行の土産話など日頃のたわいない話題を綴り合った。高校野球やオリンピックで活躍する選手たちへの感動を共有した。出会いの出発点となった学校図書室での偶然のエピソード、ふるまってくれた手料理、ともに訪れた場所や共通の友人のことなど懐かしい思い出話で花を咲かせることもあった。気持ちが沈んだときは彼女の手紙を読み返し、パワーをリチャージする。彼女との絆は、日常的に私の心の支えとなっていた。
私は彼女に会いに行くきっかけを求めていた。私のほうから出向く理由があった。彼女はお母様が若年性アルツハイマー型認知症を患われてからというもの献身的にご両親の介護に関わり、許される時間の合間を縫って私への手紙をしたためてくれていたからだ。コロナ禍においては、医療従事者とチーム一丸となって最適な介護体制を企てるも、未知のウイルスによって計画通りにことが運ばない状況が続き、大変悩ましい様子だった。また介護そのものが初めてのこととあって、家族にとっての最善を模索するのに相当の時間と労力をかけていた。彼女自身が疲れすぎないよう、抱え込みすぎないよう心を休めて欲しかった。そう考えると私がしっかり強くなって私から最大限のパワーを届ける必要があった。
年月が開けば開くほど再会したい気持ちを伝えるのに勇気がいる。自分に自信がつけば自然と勇気が湧いて行動に移せる時が来るはずだ。きっと近い将来、私は必ず彼女に会いに行きたい。
そんな時、気持ちが前向きに変化している自分に気付いた。今までの私は容姿に対するコンプレックスが邪魔をして、何に対しても後ろ向き、自己肯定感が低く、はじめから諦めることに慣れていた。会いたいと思われていなかったらどうしよう、迷惑だったらどうしよう。着ていく服がない。基本ネガティブ志向が染みついていたのだ。そんな私が、具体的に日程を絞り彼女に再会の提案をしていた。候補としてあげた日程のうち最も早い日に会う約束をした。彼女が住む町までの経路を調べ、何度も綿密にシミュレーションした。もう後戻りはできない。
そのような気持ちの変化の背景には、運動が習慣付き、徐々にメンタルが強くなったことにある。私はこの2年間、土曜日の午前はかかさずカーブスで運動している。カーブスを始めたときは、きっと3か月も続かないだろうと思っていた。運動は小学生の頃から大の苦手、流行りで始めるようなダイエットや運動も挫折経験しかない。「女性だけの30分健康フィットネス」ののぼりを見かけるようになって、私も自信を持てるようになりたいと憧れていたが馴染めるか不安だった。それが実際、毎回お店に行くたびにコーチの明るい笑顔と元気な声が歓迎してくれる。「今日も来てよかった」といつも思う。さらに、運動して気持ちがスッキリと切り替わるのを体感できるようになった。今は、平日と日曜祝日のすきま時間にも「おうちでカーブス」を継続し、仕事・家事・運動・休息が柱になって生活のリズムが出来上がっている。月1回の計測時に必ずコーチに聞かれる、「運動を続けていて1番良かったと感じることは」私の答えはすかさず「前向きになれたこと」運動をするとセロトニンの分泌が活発になり気持ちが前向きになる効果がある、とコーチに教わった。それが実感できるようになっている。
最近になって時折耳にする「ウェルネス」という言葉。これまでは「健康」といえば「health」と訳されるところ、「well-being」や「wellness」という表現のほうが目立っている気がした。ウェルビーイングやウェルネスとは、身体的な健康に加えて精神的な健康も満たすことを指すのだそうだ。現代社会において精神バランスを保って健康的に生きていくことは欠かすことができない。ましてやホルモンバランスの乱れによる不調をおこしやすい更年期においては重大なことだ。私がカーブスを続けていなければ単にヘルシー志向を意識するだけだったかもしれない。運動を続けて気づきがあったからこそ、より幸福度を高めることを追求できるように成長したのだ。
25年ぶりの再会は、懐かしさを楽しむ以上の意義を残した。互いのパワーと深い絆をあらためて分かち合えた。彼女の支えなしではここにいなかったと想像すると感謝の気持ちでいっぱいになった。彼女のご両親の状況も詳しく聞くことができた。私の将来のために助言もかねて介護にまつわる経験は惜しみなく伝えてくれた。それぞれのウェルビーイングがいかに重要であること、この先もどんな困難も支え合って乗り越えていくことを強く確認し合えた。
再会という小さな思いがこれほどに心を満たすものに連鎖するとは思っていなかった。こつこつと些細な一歩を積み重ね、運動を続けた日々が証となり、自信に繋がり、勇気を芽生えさせてくれた。行動を起こし継続している自分に誇りを持ちたい。
彼女には再び会いに行けるだろう。
そして今私はまた新たな目標に向かって、一歩を踏み出している。