「筋肉をつけてくださいね。」「それより痛み止めのお薬をください。」医者と何度このやり取りを繰り返してきたことだろう。
 14年前、私は医療事故に遭い、生活が一変してしまった。人間ドックで飲んだバリウムが原因だった。若い主治医は「バリウムが虫垂に入る」ような症例を経験しておらず、その医師の誤診による治療を受け続けるうちに、虫垂が破裂し、腹膜炎を起こしたのだ。正確な診断と治療が遅れたため、腹部の損傷はひどく、術後の治療にも時間がかかった。手術の傷口から、だらだらと膿が出た。膿を出し切るため、傷口を縫合せずに自然に閉じるのを待つという治療方法がとられた。傷口に薄膜が張るが、ちょっとした体の動きで破れる。そんなことが何度も繰り返され、少しずつ傷がふさがっていった。傷が完全に閉じるのに何ヶ月かかったことだろう。
あとで何人かの医師に「よく病院から出て来れたね。」と言われた。その言葉の意味を理解した時、ぞっとした。私の身体は、非常に危険な状態にあったということだった。
 傷が閉じてからも、いろんな症状や、痛みと付き合うこととなった。たった500mlの水が入ったペットボトルが持てない。ちゃんと手に持っているのにすとんと手から落ちてしまう。歩くという行為さえ、脇腹と腰が痛み、長くは歩けなかった。腹部の筋肉に手術によって切られ、腹筋を失い、腹部に力が入らないために、他の部位に負担をかけていたことが痛みの原因となっていたのだろう。体温は35度に、手足が冷たく年中寒い。肩こりがひどく、よく風邪を引いた。気分が悪くなるほどの身体の痛みで、眠れない日々が続いた。そんな症状に悩まされ、6年間、整形外科に通った。痛み止めの薬が必要だった。ボランティアも買い物も旅行も心から楽しむことは出来なかったが、諦めの気持ちを肯定的な考えに変え、前を向いて歩いてきた。「命が助かったんだし・・・」「やりたいことがまったく出来ないわけではないのだから。」と。
 ある日、そんな悶々とした日常に終止符を打つ出来事があった。ある人との出会いが私を変えるきっかけとなった。
 洋服店での試着室、私の前に現れたその人は、私より少し年配だが、姿勢がきれい、笑顔が素敵でロングのスカートを格好良く着こなしていた。素直に「きれい」と思った。初対面だったが、思わず率直に「運動とか何かされてるんですか?」と声をかけてみた。「そこに通ってるのよ。」と、その人が指差す先に「カーブス」があった。ロングスカートが似合うその人に魅了され、思わず「カーブス」にとびついてしまった。
「筋トレ」というと、医者からずっと言われてきていたことであり、あの人がその「筋トレ」というものをやっているのだ。私にとって良いのか悪いのかよくわからなかったが、いま自分が置かれている状態より悪くなることはないだろう、それならやってみようと軽い気持ちで入会することにした。その日から私の筋トレ習慣がスタートした。
 始めたばかりの頃は、筋肉をつけてどうなるのか、たった30分のトレーニングで筋肉なんて付くのか?そんな思いでやっていたが、店内はいつも活気があり、スタッフの人たちは笑顔で迎えてくれたので、不思議と毎日通いたい気分になった。毎回同じメニューをこなすだけのことだったが、終わると確かに身体が温かくなるのを感じたし、なぜか気分が明るくなったのを覚えている。
 通いだして3ヶ月目、ある変化に気が付いて驚いた。整形外科に行ってない!痛みがない!薬を忘れている!そして私、なんだか元気だ!ふと「筋肉つけてくださいね。」の言葉が頭に浮かんだ。筋肉を付けることが、私にとって一番の治療だったのだ。
 カーブスをはじめてもうすぐ8年、整形外科とはすっかり縁が切れた。低体温だったがいつの間にか36.7度が私の平熱となっている。手足は温か、風邪もほとんど引かない。肩こりを感じるときは「マッサージよりカーブスへ」、風邪を引きそうな寒いときも「カーブスで温まろう」という「カーブス主義」たるものが私のなかで出来上がっている。もう、いくらでも歩ける、重いものも平気、好きなところへ出かけられる、ありがたい日々を過ごしている。
 ふとした出会いから、私のちょっとした勇気と日々の努力の積み重ねもあって、健康を手にし、これからの楽しみ方を考えられるようになったことに感謝している。たまに人から「何か運動でもしてるの?」と聞かれることがある。私自身が元気でいること、笑顔でいることが本当の「伝える」ことにつながっているのではないだろうか。言葉だけではなく「印象付ける」ということなのだ。あのロングスカートの人のように、思わず声をかけたくなるような、素敵な人でいることなのだ。それがさりげない「カーブスへのお誘い」になるのかもしれない。
 今日もその人は、出会った8年前のあのときのまま。凜とした姿勢とさわやかな笑顔でカーブスに通われ、歳を重ねておられる。さて、私もそんな人になれるかな・・・。