「あー、十日間も御無沙汰なの。敷居が高いわ・・・」
「二時間ドラマを見ようと思ったけれど。やっぱり来たのよ」
「雪が降りそうなのに・・・みんながんばって来たのね・・・」
ワイワイ言いながら、エレベーターに乗り五階をめざす。

 

 ドアを開けると、暖かい空気の中で皆、嬉々として、マシンに取り組んでいる。「こんにちは」と、インストラクターのおねえさんの明るい声がとんでくる。フィットネスクラブ、カーブス草加西口のいつもの風景である。

 英語のアナウンス。軽やかなミュージック。急いで着がえ、ステップボードに乗る。まず身体をほぐし、暖めつゝ、トレーニングのリズムに乗る。縮んでいた筋肉がほぐれてゆくのがわかる。うっすらと額が汗ばんでくる。

 

 元来、スポーツ嫌いだった。ひ弱な身体でガリガリに痩せていた子供時代。私が「肥満に悩むこと」などあり得ないと思っていた。
 ところがーである。五十才半ば頃から人並みに太り出したのだ。気がつけば、一五八センチの私の体重は五十七キロ。腹囲は九十センチ。検診で体脂肪値が高いよと言われる。その上、まずい事に!私の職業は看護師。中高年の人たちに「健康指導」をしなければならぬ立場である。

 以前は、「看護師さん、やせてて良いわね。どうしたらそんな体型でいられるの?」とよく質問された。しかし、腹囲が九十センチとなった今、現実に目を向けなければならない。以前、スポーツクラブに在籍したが、「入会している事」と「運動している事」は違うという、当たり前の事を理解していなかった。入会しており、ひまなとき運動にゆけば良いや・・・の浅い考え。当然、データに変化はない。

 

 そんな時、目に止まったカーブス。まず自宅から歩いて五分というのが気に入った。運動時間が三十分でOKという。入ってみた。
 一ヵ月後の検診で、体重は変わらず。しかし、わずかながら体脂肪が落ちて、筋肉量がふえていた。これに励まされた。

 そして、十ヵ月近くが過ぎた。その後もデータに目立った変化はみられない。
 しかし、大きな収穫を得た。「快感」である。スポーツ嫌いはスポーツをして快感を得たことがないからだとも言う。私も今まで、快感を得たことがなかった。
 カーブスから帰る時、私は間違いなく「快感の中」にいる。すっきり感、爽やかさ、楽しさ、高揚感・・・軽くなった身体の中から、そんな感情がたちこめ、あーあ来て良かった、又来ようーと明るい気持ちで家路につく。

 もうひとつのおまけは、「疲れなくなった」こと。長距離バスに乗る旅行をしても、ハードなスケジュールの一日であっても、疲れが残らない。階段の昇降も気にならない。
そんなこともあって、今年は年頭の抱負に"登山をしよう"をあげた。
 

 若い頃、安曇野に住んでおり、夏の槍ヶ岳、常念岳、燕岳などに登った。近年の中高年登山は他人事と思っていた。しかし、筋力がアップしたのか、急に昔を思い出した。「そうだ、登山をしてみよう。いや、もちろん最初は里山歩きから。まず、高尾山へ登ってみよう・・・」などと、今迄全く考えも浮かばなかったことが目の前に広がってきた。入門書を購入。トレッキングシューズも手に入れた。まずは「形から・・・」ということである。
 カーブスに通い始め、ただただ自分の身体のサイズに一喜一憂していたのだが、なんと里山歩きへと夢が広がっていったのである。
今から更にトレーニングに励み、高尾山の林道を新緑に染まりつゝ歩く自分を夢みている。最終目標は、若い頃はじめて登った燕岳。アルプス銀座を歩いて、沈む夕日を眺めながら、その日は燕山荘に一泊。翌日は早めに下山して、ふもとの中房温泉を楽しむという計画である。

 

 仕事の面でも「中高年の健康は、食事と運動よ」と自信をもって患者さんへの指導につなげてゆけたらと思っている。

 

「あら、雪がチラチラ舞い始めたわ」
「そう?でも、身体はホカホカして寒くないわねェ」
「テレビも良いけど、やっぱりカーブス。又、お会いしましょう。」
帰りのエレベーターの中でおしゃべりして、別れたのだった。
ジム友とー。