十年程、前のことである。御歳八十のKさんの話に、私は心底、感服した。
 Kさんは七十三歳頃、膝が痛くて半年間歩けなかったという。どこの医療機関に行っても、「年だから」という顔をされた。自分で一念発起。図書館に行って徹底的に調べ、これは筋肉を鍛えるしかないと思い至った。
 それから毎晩、床に入ると両足を交互に上げ下げする運動を行った。足首に一・五キロの重りをつけてである。
 三ヶ月ほどで痛みは改善し、一年後には普通に歩けるようになった。七十五歳までは、海外ツアーにも一人で参加していたという。
 私がしきりに感心すると、Kさんは一言、
「私はまだ遊びたかったからー。」

 私はKさんよりに十歳近く年下だ。が、その頃、京都へ花見に出かけ二日間歩き回って右膝に初めて異常を感じてしまった。早速Kさんに同行をお願いし、スポーツ店に行って、やや軽目の一キロの重り二個を購入した。
 それから毎晩......のつもりだったが、あっさりと挫折した。第一、足に重りをつけるのが面倒だ。寝る前の疲れた体で運動するのは、思ったよりしんどい。昼間できるかというと、それもできなかった。結局、整形外科でヒアルロン酸の注射をしてもらい、重りは放り出したまま、Kさんの意志力には、遠く及ばなかった。

 筋肉を鍛える必要性は重重わかっている。それでいて、その後何もしなかった。ある日、入浴中にハッとした。顎の下、二の腕、おなか、すべてプヨプヨだらり。ゾッとした。
 筋肉どころか、脂肪のみ増えて、体重は増加の一途である。ウーム、これはなんとかしなければ-。
 そんな時、友人に声をかけられた。三十分で全身の筋肉を鍛える、女性専用のスポーツクラブがあると。物見高い私はすぐに見学に行き、迷わず入会を決めた。それがカーブスだった。

 四十六歳の時、早期乳ガンの手術をした私は、その後二十年間病院とは縁が切れなかった。何か運動をしなければと思い、気功に通ったり、フィットネスクラブに入会したりした。だが、どちらもお仲間作りにはよかったが、筋肉効果は感じられなかった。丸一日、クラブに入り浸り、お風呂にまで入って帰るというのは、私の性(しょう)に合わなかった。
無駄な時間を費やさず、全身の筋肉を効率よく鍛えることが出来る所があったらと、心中ひそかに思っていた。そんな私の要望にピッタリと当てはまったのが、カーブスだった。マシンを二周、ストレッチ、着替えをしても一時間できっかり終わる、この無駄のなさが気に入った。

 カーブスに通い始めて三ヶ月ほどすると、体の変化は人目にはわからなくても、自分にはよくわかった。プヨプヨ部分が締まってきて、体重は二キロ減、肩こり、腰痛も緩和されてきた。
 早いもので、今、私はカーブスの十年選手だ。ベテラン扱いされるのは、おもはゆい。
「年数は長いけれど、回数は少ないの」
と、いつも言っているが、たとえ週に一、二回でも行かないよりはまし。全く筋肉運動をしていなかったら、今頃は白ブタさんになっていただろう。
 Kさんのように自分一人でやる強い意志のない私は、皆さんと一緒だからこそ出来るのだと思っている。スタッフの方達の、温かい励ましや、元気な声に、こちらも若さをもらう。健康に対する意識が、新たになる。
 最初はバスで遠くのカーブスに通っていた。次は電車で、今は自転車で十五分の所に通っている。三か所目で、だんだん近くにはなったが、出かける前はちょっぴり気合いがいる。だが、帰りの道は心地よい疲れと共に満足感と爽快感があるのは、なぜだろう。きっと、明日への健康につながると信じているからだ。
 九十歳を過ぎたKさんは、今でも御健在である。私も出来る限り、カーブスに通い続け、自立した老後でありたいと思っている。