40歳も半ばを過ぎたころから、急に下腹がポッコリ出てきた。椅子に腰かけるとムギュッと肉が上がり、ウエストがきつい。9号の制服は全体的に少々きつめだが、ここで11号にしてしまったら贅肉の思うツボだと何とか耐える。ある時図書館に所用があり、ほぼ満席の自習室で作業をしていた。少々寒くなりかけていた時節で、冷気を感じて急にくしゃみが出そうになり慌てて堪えたところ、下腹に力が入り、その圧力が下腹からウエストに連動し、なんとスカートのアジャスターがパッツーン・・・と破壊された。それはカラカラカラ・・・と冷たい金属音と共に床に転がった。
   それから程なくして、会社の健康診断が指定の病院で行われた。下腹周りの数値は辛うじてメタボの域には達していながったが、BMIが「肥満」の数値となっていた。身長が低いのは不利である。そう言えば看護師が「体重、この数字なんだけど間違いないのかしら?」と小声で聞いた。身長と見た目の割には体重が多かったためだろう。「そんなに聞くほど?」と私は内心愕然としていた。しかし見た目は中肉中背なのだから、『脱いだら凄いんです』の意味が違うのも嫌だ。ようするに「着やせ」なのだが。得てして主婦は、1日の終わりに残飯整理が必要な時がある。なので食事制限は無理だから、運動をして体重を減らそう!
 図書館での恥と、健康診断での恥、この2つの要因が「カーブス」の門を叩く原動力となった。時に53歳。ポッコリを気にし始めてから7、8年は過ぎてしまった。
 仕事帰りに通えるカーブスの店舗は、スーパーマーケットの 角にあった。駐車場は広いし、帰りに食料も調達できる。早速予約をして、いざ、出陣!!これがすこぶる楽しい。運動音痴の私でも、マシーンを言われた通りに動かせば良いのだから。体験の時から「これは続けられる!」と直感した。もっとも、腹圧を入れたり正確なマシーンの動かし方を習得するのには少々月日がかかるが、今ではほぼ完ぺきであると思う。
 入会の時に目標を書いた。「6個に割れた腹筋を目指す」。これにはコーチも「う?」となったらしく一瞬言葉に詰まっていた。しかし気を取り直したのか、腹筋に効くマシーンはあれとあれと・・・と教えてくれた。「お腹のポッコリ解消は長丁場だけどね」という言葉と共に。
 あれから丸3年が過ぎた。週に3回のペースでせっせと通っている。さて私の下腹は・・・?相変わらずドデーンと鎮座ましましている。体重もむしろ増えている。先の健康診断にて、下腹周りの数値は辛うじてメタボではないが、BMIは「肥満」。はて?これは如何なることか?筋トレの効果が無いと言うことか?
しかし辞めることは頭にない。何といってもその他の効果が凄い。私はプロテインも飲んでいます派、なのだが、髪は同年代より白髪が少ない。爪は磨かなくてもピカピカ。二の腕の振り袖(手を振るとタプタプする贅肉)はない。まぁ、胴体の部分は目をつむり・・・、太もも、ふくらはぎは筋肉でパンパン。これらが筋トレとプロテインの効果であることは明白だ。辞める要因はない。まぁ、胴体の部分は取りあえず棚に置いておこう・・・。
 会社は3階建てで、月曜の朝に朝礼があり、3階まで自力で上がるが、以前は上がりきるとはぁはぁしていたが、今はまったく普通の呼吸だ。会社の朝の掃除も範囲が広く、終わった後ゼイゼイしていたのが今は全くしない。特筆すべきはこの3年間まったく風邪をひいてないということだ。3年と言えばカーブスに通っている年月であるから、そのたまものと言えよう。これと筋トレとはどういう関連があるのか?コーチ曰く「筋トレにより体温が上がり免疫力がアップした」とのこと。私の風邪は喉からきて、抗生物質を飲まないと痛みが取れない。風邪を引かない自分が今一番嬉しいことかも知れない。
 さて、下腹だ。ある日、大宮から上野まで高崎線を使った。車内は混んでいて最初から立っていたが、上野の1つ手前の駅にて、目の前の座席で本を読んでいた男性がふと顔を上げるなり、「あっ、気がつかなくてすみません。どうぞどうぞ。」と席を譲ってくれている。どうやら妊婦に見えたらしい。私はその男性がその駅で降りるのかと思い「あ、どうも。」と遠慮無く座ったが、男性はそのまま立っている。ガーーン・・・果たしてその男性の目に、私の腹は妊娠何ヶ月に見えたのだろうか?
 カーブスでは毎年「脂肪をテーマにした川柳」を応募形で募集し、大賞、ご当地賞など様々な賞を決め、景品を出している。その妊婦間違われ事件の年に応募した川柳は、
「お腹見て 席を譲られ ニセ妊婦」。残念ながら無冠。
 またある日、今度は山手線だったかやはり混んでおり、つり革にぶら下がっていたら急にガタンと衝撃があり前につんのめった。すると今まで目の前でおしゃべり三昧だったご婦人の一人が「まぁ、大丈夫?どうぞお座りになって?」とまたまた席を譲ってくれようとしている。さらに、「6ヵ月くらい?大事な時期だからね、どうぞ。」どうやら私の下腹は妊婦に置き換えると6ヵ月くらいらしい。なんだか居たたまれない気分になり、電車も丁度次の駅に着いたし「あ、ここで降りますから。ありがとうございます。」と降りるはずの駅でもないのにささっと降りた。
その年の応募作は、「55歳 妊婦に見られて 泣き笑い」。残念ながらまたも無冠。妊娠可能な年齢に見られている、と言うことはある意味嬉しいが。その後は人混みでは極力、最大限に注意して、お腹をへこませている。
 さてまたある時、立ち寄ったスーパー銭湯の鏡に映った自分を見て驚いた!なんと、お腹の真ん中に一本縦線がある。更にバストの下あたりに2個、ポッコリしたものがあるではないか!これはすなわち、6個に割れた腹筋のうちの2個と言うことか?と、色めき立ったのも束の間、2個のポッコリは肺の下の部分だった。しかしながら縦線は確かに出来ている。つまりようやく縦に2個に割れたと言うことか?しかも脇のあばら骨が見えるとは言わずとも、肺の下の部分が見えているということは、その部分の贅肉が取れたということではないか?確かにウエストが引き締まったと誰からも言われる。ただ、引き締まった、と痩せたは違うらしく、制服のウエストは相変わらずキツイが。
 苦節3年、いやもう3年半になる。ようやく妊娠6ヵ月に見える私の頑固な下腹の脂肪にも何らかの変化が見えてきた。もしかしたらこの下腹の脂肪の下には6個に割れた腹筋が出来ているのかも?いや、それはない。でも兆しが見えてきたからには初志貫徹!ポッコリを消し去り、6個に割れた腹筋を作るぞ!!
 今日もチャレンジハードでマシンに挑む私なのであった。